インタビュー(河野さち子氏)


ゲームのキャラクターに命を吹き込んでくれる絵描きさんに、その熱い思いを伺う本コーナー。今回は「スーパーロボット大戦(以下スパロボ)」シリーズでおなじみの河野さち子さんの登場です!

「魔装機神」でキャラクターを描くときに心がけたことは?
マサキなど、「魔装機神」では「スパロボ」シリーズに登場していたキャラクターをリファインするというところから入ったので、わたしがするべき仕事は「もとの絵の良いところを伸ばす」仕事だと思っていました。自分が描けば、イヤでも自分の絵になってしまうので、「ここで自分の”色”を出すチャンスだ!」とは思わず、元からいるキャラクターの良さを引き出すことに神経を注ぐという気持でやっていました。これは、ほかのゲームのキャラクターデザインの方とは、初めから取りかかり方が違うかも・・・?

「スパロボ」シリーズのオリジナルキャラクターの作り方は?
キャラ作りとしてまず考えるのが、「オリジナルキャラクターの位置づけとは何だろう?」というところです。「スパロボ」シリーズのオリジナルキャラクターは、年代や画風が違うロボットアニメをつなげる役割でなければいけないという自分のポリシーがあって、絵が今風すぎると昔のキャラクターを食ってしまうし、絵が古すぎても最新のロボットアニメのキャラクターに食われてしまうんです。とにかくバランスや調和を重視しています。すべての中間に存在して、「新しいけれどチョイダサ」ぐらいがいいんだと思っています(笑)。

イラストを描くようになったキッカケは?
おそらく2歳くらいのときに、「鉛筆を引っ張ると線が引ける」と気付いたときでしょうか。丸を描いてその中に丸を描くと顔になるなぁ、なんてことをしていました。それから普通の幼稚園児が描くような女の子の絵とか、チューリップの絵とか・・・。そうそうマンガをマネて描いたのは「鉄腕アトム」ですね。うちは家族が多くて叔父も一緒に住んでいたんですが、その叔父が持っていた鉄腕アトムのマンガを、字が読めるようになったころからずっと読んでいました。
それからは、小学校5年生のときに「キャンディキャンディ」(注1)に夢中になり、中学校に入る直前のころ、「機動戦士ガンダム」との衝撃の出会いがあって、それから、アニメーターへの道を目指しましたね。すべての道がガンダムで狂ってしまったような(笑)。
高校卒業後は、東京デザイナー学院のアニメーション科に入り、そこで2年ほど勉強してから、アニメ会社に就職しました。入社当時は何をやっても楽しかったですね。それから7年間アニメーターをしていたんですが、同じ会社にいた先輩から、レイアップという玩具企画会社に誘われまして。おもちゃ会社なので「自分で企画できるよ」と言われたことも響いて入社したところ、1年くらいたったあたりで「魔装機神」の話があったんです。キャラクターデザイナーを決めるコンペと言っても、それこそ絵を描ける者がみんなで参加して、といった具合だったんですが、それがキッカケとなって「スパロボ」シリーズにかかわることになったんですね。

「スパロボ」シリーズで一番思い入れのあるキャラクターは?
キャラクターデザインの決まりごとを一切捨てて、原点に立ち戻ったキャラクターがいます。それは「スーパーロボット大戦Z」のセツコ・オハラなんです。これはとことん地味にしたんですよ。もう「絶対目立たない、絶対主張しない、絶対不幸そう!」という、とにかく地味に、地味に! という感じで(笑)。服装に関しても黒い軍服で赤いポイントが入っているというオーダーだったので、あえてどこかで見たような感じの、やや古くさくて地味なものにして。ほかのロボットキャラを立てる「キミは土台なんだ!」というわたしのポリシー的なものが全部詰ったのが、セツコというキャラクターですね。そこに声を当ててくださった高口幸子さんの声は天から降りてきたようで、絵のマイナス面を包み込んで昇華してくれたんですね。「本当にセツコだ! これでキャラクターが完成したなあ」と思いました。
キャラクターを作る作業というのは絶対に独り善がりではやってはいけない作業だと思っていて、やっぱり発注された方の意図があり、それを受ける器を作るわたしの役目があり、声という形で魂を吹き込んでくれる声優さんのボイスが加わって、やっと完成するものだと思いますから。そういう意味ではセツコは声優さんにも恵まれて、地味でいいキャラになったと思いますね。「『スパロボ』のオリジナルキャラはこういう気持であってほしい」というものが全部詰ったセツコは「好き」というよりは「特別」なキャラクターですね。

キャラクターデザインで一番大事だと思うことは?
キャラクターというのは人間を描くことだと思うので、人間観察や自分の経験は大事だと思います。浮き沈みのある人生のほうがいいキャラクターを生み出せるのかな、とか(笑)。尊敬している日本画家さんが「絵を描く人間は、人とかかわらなければダメだ」とTVでおっしゃっていて。絵を描く仕事というのは自分の世界に入り込みがちなんですけど、時には自分からぜんぜん違う世界にいる人とかかわり合いを持って、いろんなことを知らないとダメだなぁ、と思います。自分の頭の中だけで人間は描けないということもありますし、想定外の感動に出会ったときは、それが全部絵に還ってきますから、やっぱり人とのかかわりは大事だと思いますね。
キャラクターデザインは、いろんな美しいものや醜いものを見たり、すべてを受け入れて自分のものとして消化して出す、という作業だと思うんですよね。また、それを受け取る人に強制してもいけない。受け取る人は受け取る人の心のまま、思ったとおり受け取ってほしいし、受け取る人が考える余地も残しておきたいと思うんです。だから、難しくて楽しい作業です。

「スパロボ」シリーズのオリジナルキャラクターを1人で考えている?
わたしがキャラクターデザインとして名前を出させていただいていますが、キャラクターの土台になる原案を描かれた方が数多くいるんです。「無限のフロンティア」シリーズのキャラクターデザインを担当され斉藤和衛さんも、その中の1人です。「無限のフロンティア」シリーズについては、わたしはパッケージイラストと、誌面などで公開されているキャラクターイラストを描いただけなんですよ。実は、キョウスケ・ナンブ、エクセレン・ブロウニング、ラミア・ラグレス、アクセル・アルマーも斉藤さんが元デザインしたキャラクターなんです。「無限のフロンティア」シリーズのパッケージを描かせていただいたときに、「なんてち密でキレイな飾りを描く方なんだろう!」と斉藤さんのデザイン力に驚きましたね。斉藤さんはキャラクターだけでなく、アルトアイゼンなどの主要メカもデザインをされてますし、メカとキャラクターを描けるすごい方なんですよ。
そのほか、わたし以外に代表的な方といえば、糸井美帆さんもキャラクターデザイン貢献度が高いですし、昨年リリースされたWiiの「スパロボNEO」では内山紳介さんがオリジナルキャラクターをデザインされています。確かに、わたしが担当させていただいた作品数は多いかもしれませんし、お会いしたことのないデザイナーさんもいらっしゃいますけど、いわゆる河野さち子は「チーム名」みたいなものだと思っています。「スパロボ」にかかわらせていただいて良かったと思うのは、こういう方とのつながりに触れられるところです。今回もわたしが前面に出させていただいていますけど、やっぱり「スパロボ」のキャラクターデザインは共同作業なんですね。

神サマ教えて!7つのショートQuestion
1.はじめて描いたイラストは?
最初にお話しした、丸やぐるぐるを描いた絵ですね。キャラクターとしてはやっぱり「鉄腕アトム」のアトムです。あの頭のとんがりのバランスが子供には描けなかったんですよ。あのバランスは黄金率ですかね(笑)。

2.好きなイラストレーター・マンガ家さんは?
たくさんいるのでなかなか選べないんですが、1人選ぶとすればマンガ家さんの日渡早紀さん(注2)でしょうか。かなら昔ですけど、日渡さんの代表作「ぼくの地球を守って」に友人と一緒にハマリまして。それがアニメ化したときに原画担当として参加できたんで、そこでアニメーターとして思い残すことがなくなっちゃったんです。そう考えると、これも「スパロボ」にかかわるキッカケだったのかもしれないですね。

3.好きなキャラクターは?
「幽☆遊☆白書」の飛影ですね。あの三白眼でツリ目の。目つきの悪さが(笑)。こちらもアニメで原画をやらせていただきました。

4.今まで遊んだ中で一番好きなゲームは?
「ファイナルファンタジーW」(SFC)です。双子のパロムとポロムが石になって壁を止める場面は、「うわ〜」って泣きました(笑)。ほかには「アンジェリーク」(SFC)とか、乙女ゲーにもハマりましたね!

5.今遊んでいるゲームは?
「NEWスーパーマリオWii」(Wii)です。短時間でさくっと気分転換できるので・・・。

6.この仕事をしていなかったら?
きっと何かしら物は作っていたと思います。陶芸や染物、あ、発掘も興味あるので、きっとそういうものに没頭してエジプトに行っていたかもしれません(笑)。

7.最近感動したことを教えてください。
これはありすぎて悩みます! 年のせいかちょっとしたことで感動するんですよね〜(笑)。最近ではちょっとした事故の現場に遭遇したんですが、当事者のお身内のとっさの判断と対応が的確ですばらしかったので・・・はたして自分がその立場だったら、同じようにできるだろうか・・・と。普通の身近な方の行動や考え方の中から気付かされることが多くて、日常の中でかかわる方々の中に「すごい」ところを見つけると、本当に感動してしまいます。

注1:1975年から原作・水木杏子、作画・いがらしゆみこのコンビで「なかよし」に連載された少女マンガ。孤児ながら明るく生きる少女・キャンディの成長を描く。
注2:マンガ家。「アクマくんシリーズ」などの作品も。「ぼくの地球を守って」は1987年より「花とゆめ」にて連載された。月へ移り住んだ地球人であるという前世の記憶を持った主人公・坂口亜梨子と、同じく現世の記憶を持った者たちが、その記憶をたどる物語。

マサキを初めてリファインしたときに忘れられない指示が、「まゆ毛がムン!」という言葉です(笑)。要するに太いまゆ毛で、パッチリとしたツリ目という指示なんです。最初に元々あったグラフィックの絵を見た時は、そんなにツリ目だと思わなかったんですが、それを見たまま描いたら、例の「まゆ毛ムン!のツリ目で」みたいな指示が来て、もうちょっとハッキリした顔に描き直していった感じですね(河野さん)

Profile
スタジオG-1 NEO所属のキャラクターデザイナー。アニメーター時代には「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」「魔法のプリンセス ミンキーモモ 夢を抱きしめて」「幽☆遊☆白書」などの作品で原画にかかわる。その後、株式会社レイアップで「美少女戦士セーラームーン」のガシャポン用図面などを担当。1996年にリリースされた「スーパーロボット大戦外伝 魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL」(SFC)のオリジナルキャラクターデザインを担当し、以降数多くの「スパロボ」シリーズのオリジナルキャラクターを手がける。